まずはじめに
初めに、住まいを貸す理由や将来を考えましょう。
なぜ貸すのか?どのくらいの期間貸すのか?将来そこに住む予定は?など、整理してみましょう。
【貸す】と一概に言っても通常の賃貸借契約(普通借家契約)、契約の終了が確実な定期建物賃貸借契約(定期借家契約)と【貸す】にも種類があります。
将来住む予定がない場合は賃貸ではなく、売却のほうが適切な場合もあるかもしれません。
住まいを貸すには様々な理由があるので、将来を見据えて「貸す理由」をしっかりと整理することが重要です。
家を貸すメリット・デメリット
■メリット
・家賃収入が得られる
・愛着のある家を手放さなくていい
・家に戻ることが出来る
・将来、子供に相続することができる
・必要経費が家賃収入を上回った場合、確定申告によって税金が戻ってくる場合がある
■デメリット
・空室になった場合、収入が得られない
・入居者や建物管理の手間と費用がかかる
・家賃収入に対して確定申告が必要
住まいを貸す時の流れ
ステップ①:相場を調べて賃料の目安を立てる
いくら程度で貸せるのか、目安を立てるために周辺の募集賃料を知る事から始めてみましょう。
間取り・広さ・築年数・設備など内装の他にも周辺環境や駅までの距離によっても賃料の相場は変わってきます。
ネットや折り込みチラシ、専門家である不動産会社のアドバイスを受けるなど様々な情報収集をしたうえで取引に臨む事が重要です。
✓個別に物件の賃料を知る
住まいの賃貸借の場合、一般的には募集時の賃料と実際の契約賃料との差はあまり大きくないと言われています。
そこでまずは広告等に掲載されている物件の賃料を調べる事である程度の相場を把握できます。
ただし実際に取引される賃料と掲載された賃料が一致するとは限りませんのであくまでも参考情報として活用してください。
✓各地域の相場動向を知る
平均的な賃料相場やその動向については様々な統計情報が公表されています。
それらを調べる事によってエリアごとのおおむねの賃料相場や変動を把握することが出来ます。
また、そのエリアの情報を多く扱っている不動産会社から相場情報を聞くことも有効です。
ステップ②:貸した場合の収支について考える
住まいを貸すと、賃料が収入となって毎月入ってくるのですが税金や管理費などの支出も出てくるので考慮する必要があります。
なのでおおむねの収入と支出がどのようになるのかバランスをみておきましょう。
ローンが残っている場合はその返済も考慮しなければなりません。
✓入ってくるお金を確認する
住まいを貸すと以下のような収入があります。
●継続的に入ってくるお金●
【賃料】
借主から毎月入ってくる賃料です。
ただし、常に借主がいるとは限らないので、空室の可能性も考慮して少なめに見積もっておくほうが安全です。
【管理費(共益費)】
借主が負担する物件の管理費(共益費)がある場合には毎月入ってきます。
管理費(共益費)を賃料に含んでいる事も多いようですが、分けて受け取る事もあります。
管理費(共益費)の受取扱いは、物件の地域の取引慣習などによっても変わります。
●一時的に入ってくるお金●
【礼金】
新規契約の際、貸主に対する誠意として、借主が払うものです。
一時的に賃料の1ヶ月、2ヶ月分の場合が多いですが、礼金を授受しない事もあります。
【更新料】
賃貸借契約の更新に際して契約内容に応じて借主が貸主に支払います。
一般的に更新後の新賃料の1ヶ月分という例が多いようですが設定しない事もあります。
礼金や更新料の取り扱いは、地域の取引慣習のほか周辺の市場動向によっても変わる可能性があり ます。(例えば、市況が悪化してる場合は礼金や更新料の設定が下がる可能性があります。)
●借主から預かるお金●
【敷金など】
新規契約の際、賃料や物件の補修費用等の支払いを担保する目的で貸主が借主から預かるものです。
一般的には賃料の1ヶ月、2ヶ月分の場合が多いです。
退去の際に故意過失で損傷・破損などがあった場合や賃料の滞納に敷金をその支払いに充てることが出来ます。
ただし基本的には退去時に借主に返還するものなので収入とは分けて考えましょう。
なお敷金などの返還にあたっては利子をつける必要はございません。
✓出ていくお金を確認する
住まいを貸すと以下のような支出が発生します。
継続的なもの
●賃貸すると追加でかかるお金●
【管理委託費】
不動産会社に「入居管理」や「建物管理」を委託する場合に必要となります。
「入居者管理」…賃料の集金や入居者からの苦情対応
「建物管理」…物件の清掃やメンテナンスなどを行う
委託する業務の内容や委託戸数、不動産会社によっても金額が違ってきますので個別に不動産会社 に確認する必要があります。
※自ら管理を行う場合は必要ありません※
【住み替え先での住居費】
自宅を賃貸した場合は住み替え先での住居費が追加支出となります。
●所有していると必ず出ていくお金●
【固定資産税・都市計画税】
物件の所有者が納めなければならない税金です。
【管理費・修繕積立金】(分譲マンションの場合)
分譲マンションの場合は管理規約等に元図いて支払う必要があります。
【購入時のローン】(ローンを利用している場合)
完済するまでは毎月返済する必要があります。
なお、住宅ローンは原則として自分が住む住宅を購入するために利用するものなので、転勤等の一時的事情によるものでなければ、ローンの一括返済を求められたり、賃貸用のローンへの借り換えを求められたりする場合があります。
✓一時的に出ていくお金
●賃貸すると追加で出ていくお金●
【一時的なメンテナンスや修繕費用】
室内の設備の故障などのメンテナンス費用や入居者の退去時の補修費用やクリーニング費用などが追加支出となります。
【仲介手数料】
入居者募集を不動産会社に依頼する場合、原則として借主との契約時に月額賃料の0.5ヶ月分+消
費税の範囲内で仲介手数料が必要となります。
ただ借主も不動産会社に依頼し、1ヶ月分の仲介手数料を支払う事を承諾しているときは1ヶ月分+消費税を借主から受け取る事ができ、その場合は貸主の仲介手数料は不要です。理由として、双方からの合計が1ヶ月+消費税を超えられないという宅地建物取引業法上の規則があるからです。
【その他諸経費】
損害保険料・交通費・通信費などその他にも費用が必要となる場合があります。
●所有していると必ず出ていくお金●
賃貸する・しないに関わらず、建物や設備等の修繕等の費用は一時的な支出として計画的に用意しておく必要があります。
この費用は建物の種類・規模・築年数・設備の使用年数によって変わります。
住まいを賃貸するにあたって収支を把握しておくことが大切です。
継続的な収入と支出に基づいて、まずは毎月の家計に与える影響などを確認しましょう。
また、一時的な収入や支出を含めて全体的な収支のイメージを持っておくと、貯蓄などの計画も立てや すくなります。
!ワンポイント!
不動産に投資する際、投資の判断基準となるのが利回りです。
具体的には物件の購入価格などに対してどれだけの家賃収入などで利益が得られるかを示したものです。
利回りが高いほど収益性が高いということになります。
【利回りの計算例】
表面利回り(〇%)=年間賃料÷購入価格×100
実質利回り(〇%)=(年間賃料-年間経費)÷購入価格×100
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利益の考え方
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特 徴
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利 用
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表面利回り
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収入の額(粗利益)
※支出は考慮されない
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容易に算出可能であるが、おおむねの収益性しか把握できない
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投資検討の初期段階
広告などに表示される
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実質利回り
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収入から支出を控除した額(純利益)
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支出の把握が必要であるが、より正確に収益性を把握できる
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具体的な検討段階
個別に開示される
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ステップ③:仲介・管理を依頼する不動産会社を選び、賃料査定を依頼
住まいを貸す場合、信頼できる不動産会社を選ぶことはとても重要です。
✓不動産会社の特徴を知りましょう
様々な特徴を持つ不動産会社。
中には自社のネットワークを活用した情報提供や遠隔地での取引に強みを発揮する会社、特定の地域で長く営業していて不動産以外にも地域情報に精通している会社などなど会社の規模で判断できない各会社の特徴があります。
近隣での評判などを参考に不動産会社の担当者とコミュニケーションを取る中で見極めていく事が大切です。
✓不動産会社の基本情報をチェック
インターネットや宅地建物取引業者の場合は行政機関などで基本的な不動産会社の情報が調べられます。
住まいを貸すにあたって不動産会社に仲介を依頼する場合には確認しておくといいでしょう。
不動産会社に住まいの賃料査定を依頼します。
ここでは適切な賃料を把握する事はもちろんのこと、不動産会社の信頼性を見極めることも大切です。
査定の方法には一般的に「簡易査定」「机上査定」といわれるものと「詳細査定」「訪問査定」といわれるものがあります。
簡易査定・ 机上査定
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周辺の取引事例データから算出した簡便な査定。
検討の初期段階でおおむねの相場を把握するために利用されることが多い。
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詳細査定・ 訪問査定
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実際に物件の状態(建物内の住戸の位置、階数、向き、日当たり、眺望、設備、周辺施設、室内の傷み具合、賃貸前のリフォーム・修繕の必要性など)を細かく確認した上で行われる詳細な査定。
募集賃料の設定時などにおいて利用される。
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賃料査定に関しては複数の不動産会社に依頼して各社の査定賃料を比較してみましょう。
ただし前提条件が違うと査定結果を比較できないので、どの会社にも同じ情報を提供する事が重要です。
また正確な査定を行うためには物件の不具合などの情報もできるだけ提供しましょう。
※賃貸と並行して売却も検討している場合は売却の査定も同時に依頼してみるのもいいでしょう。
★査定依頼にあたって必要なもの★
簡易査定
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地図、登記記録(登記簿)等
ほとんどの場合、物件を特定できれば簡易査定は可能。
地図については不動産会社に備え付けのもので充足することも多いです。
登記記録(登記簿)は、物件の正確な面積等を把握するために、提出を求められる時があります。
ただし査定結果を、㎡や坪当たりの単価で示す場合は不要な時もあります。
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詳細査定
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地図、登記記録(登記簿)、その他詳細資料(購入時の重要事項説明書、建築関係書類等)
物件を特定する資料に加えて、その他の詳細資料が必要となる場合がある。どのような資料が必要となるかを不動産会社に確認し、できるだけ多くの資料や情報を提供しましょう。
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※上記の資料や情報が不足する場合は不動産会社が調査をしてくれる事もあります。
不動産会社から査定賃料が提示されたらその根拠をしっかりと確認する事が重要です。
査定賃料の根拠の説明は不動産会社に応じてい様々な手法で行われます。
また複数の会社に査定を依頼した場合査定賃料に差が生じてきますが、高い査定賃料を提示したところが良い不動産会社というわけではありません。
高すぎる賃料を設定したが為に入居者が決まらなくなってしまう事がないよう、査定賃料の裏付けをしっかりと確認することが重要です。
また賃料査定によって物件のおおよその賃料を把握することはもちろんの事その会社がいかに丁寧に親身になって査定賃料の根拠を説明してくれるのか、その説明内容が合理的で納得のできるものなのか、信頼できる会社なのかどうかなど見極めるのも大切です。
結果と会社の対応を踏まえて自分に合った不動産会社を選びましょう。
ステップ④:不動産会社と契約【仲介業務と管理業務】
住まいを貸す場合、入居者を募集し入居後の管理(賃料の授受、入居者の苦情対応、物件の清掃など)を行っていく必要があります。
これらを自分自身でやる事が出来ないものに関しては不動産会社へ依頼する事になります。
入居者の募集を依頼する場合→仲介業務
入居後の管理を依頼する場合→管理業務
それぞれ上記の業務を不動産会社に依頼します。
【仲介業務】
仲介を依頼する前に不動産会社に確認しておくこと。
1.希望を明確に伝える
賃貸を開始する時期、希望する賃料、募集活動の方法、その他の希望条件を明確に不動産会社に伝えることが重要です。
ただ、希望条件によっては賃貸が困難な場合もありますので、不動産会社と十分に協議したうえで
最終的な条件を決定しましょう。
2.依頼の形態を確認する
不動産会社への依頼の形態には「媒介」と「代理」があります。
それぞれ特徴がありますので自分の要望を踏まえて不動産会社と協議したうえで決定しましょう。
依頼形態
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想定される特徴
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代理
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n 貸主の手間はほとんど発生しない。
n 自分の希望を正確に伝えていないと、希望に反する条件で賃貸してしまう可能性がある。
n 入居者募集から契約までの一切を任されるので、不動産会社の取組の密度が上がる可能性がある。
n 媒介に比べ競争性は低い。
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媒介(仲介)
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n 貸主の入居者募集の手間を大きく減らすことができるが、複数の不動産会社に依頼する場合はその交渉に伴う手間が生じる。
n 複数の不動産会社に依頼している場合、不動産会社の取組が希薄になる可能性がある一方で、競争性は高まる。
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※上記の特徴は必ずしもすべての事例に当てはまるものではありませんので留意してください。
【仲介業務の内容を確認する】
正式に仲介を依頼する前に不動産会社が提示した仲介業務の内容を再度確認することも大切です。
この確認を怠ると受けられると思っていたサービスが受けられない事態を招く事もあります。
(どのような募集活動を行うのか・どのような報告を受けられるのか・契約に向けたサポート・入居後の対応など)
【仲介手数料を確認する】
仲介業務の内容を明らかにしたうえで、仲介手数料を確認します。
法規制により仲介手数料には上限があり、それ以上の仲介手数料を受け取った場合は法令違反となります。
また法令で定められているのはあくまでも上限ですので、当然に上限の額を請求できるという事ではありません。
(1)依頼者の依頼に基づいて発生したものであること、
(2)通常の仲介業務では発生しない費用であること、
(3)実費であること、
上記のすべてが満たされている場合に限定した例外的な取り扱いであることに留意しておきましょう。
>>>特に賃貸の仲介では根拠のない広告費等を請求されることもありますので注意です<<<
賃貸借の仲介手数料をめぐるトラブルは多いので、仲介で数量の法則制などをしっかりと理解して不動産会社と協議しましょう。
※仲介手数料は消費税の課税対象なので、別途消費税がかかります※
◆ 賃貸借の仲介(媒介または代理)で不動産会社が受取る事ができる報酬額 ◆
物件種別
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報酬額(税抜き)
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貸主
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借主
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居住用の建物(住まい)
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賃料の0.5ヶ月以内
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賃料の0.5ヶ月以内
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依頼者の承諾がある場合は、いずれか一方から賃料の1ヶ月分以内を受けることができます。
この場合も貸主と借主から受ける報酬の合計額は賃料の1ヶ月以内でなければいけません。
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その他の物件
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貸主と借主から受ける報酬の合計金額が賃料の1ヶ月以内であれば、それぞれ受ける報酬額に特に制限はありません。
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依頼者の特別依頼に基づく費用
(広告費や出張費など)
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実費に相当する額
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不動産会社と仲介業務の内容などについて合意したら、正式に仲介を依頼しましょう。
また依頼するにあたって留意事項があるのでチェックしておきましょう。
①契約書の締結が義務付けされていない
賃貸借の仲介では不動産会社に仲介に関する契約書(媒介契約書)の依頼者に対する交付が義務付けられていません。(売買の仲介の際は義務付けられています。)したがって、媒介契約書の締結は不動産会社との任意となりますが、トラブル防止のためできれば契約書を結ぶ事が望ましいです。
②媒介契約書を結ぶ場合は希望条件を明確に記載する
媒介契約書には不動産会社と合意した仲介業務の内容などをしっかり明記しましょう。
【管理業務】
賃貸に関わる管理業務を自分で行う事も不可能ではありませんが、不動産会社に委託する事も出来ます。
委託を受けた府づ尾さん会社は借主の入居後から退去までの一連の業務を行います。
管理業務にも大きくわけて「入居管理」と「建物管理」の2つがありますが、いずれの業務も密接に関係しており、業務の内容も不動産会社や契約の内容によって様々です。
何をどこまで任せたいのか整理したうえで、業務を委託する事が重要です。
入居管理で不動産会社がしてくれること
賃料集金代行
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借り主から月々の賃料、管理費などを所定の日に集金する業務。
振り込み、カード会社による提携サービスの利用、現金での回収などの方法がある。
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賃料滞納への対応
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借り主が賃料滞納した際に連絡などの対応を行うサービス。
管理会社によってサービスの内容は異なる。賃料滞納には、適切かつ迅速な対応をしてくれる不動産会社を選びたい。
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賃料保証
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借り主が一定の保証料を支払うことで、借り主の賃料、管理費、駐車場料金等の居住用賃料債務について、家賃保証会社が債務保証を行うサービス(機関保証といわれる)。借り主が賃料を滞納した場合に、貸主は家賃保証会社からの弁済を受けることができる。
会社によって保証内容は異なるので、十分確認することが必要。なお、保証業務には、賃料滞納後の賃貸借契約の解除、明け渡しまでにかかる弁護士費用を負担する特約などもある。
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苦情対応
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入居者からの苦情や入居者と周辺住民とのトラブルなどの対応を行うサービス。
なかには、24時間電話対応をしてくれるサポートセンターを設けている不動産会社もある。
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契約更新業務
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借り主に契約更新、あるいは退去の意思を確認し、更新の場合には必要な契約書類を用意するなどの対応を行う。
退去の際、貸主に代わって明け渡しに立ち会うなどの業務を行っていることもある。
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建物管理で不動産会社がしてくれること
日常的な業務
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定期的に管理員を派遣して、清掃やごみ出しなどを行う業務が中心となるが、巡回の頻度など具体的な業務の内容については個別の契約によって異なる。
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退去にかかわる業務
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入居者の退去後の室内の状況に応じたクリーニング、リフォーム、修理などの手配をする。入居者管理と一括して委託している場合であれば、退去の申し出があった時点から手配をしておくこともある。
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その他長期的な業務
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物件の価値を落とさないためには、適切な時期に適切な補修を行うといった、建物の老朽化対策が必要。そのための長期修繕計画作成、予算計画作成などが主な業務となる。物件を長期間賃貸する場合には、このような業務の委託も検討したい。
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※ここで挙げたサービスは不動産会社に建物管理を委託した場合に受けられる主なものです。実際にはご自身でサービスの内容を確認し、委託してください。
管理業務に関しては不動産会社に対する法規制がないうえに業務内容が多岐にわたるため、「委託する業務の詳細な内容」「委託にかかる経費」などについて十分に検討し、慎重に判断しましょう。
仲介を行っている不動産会社が管理業務を行っているとは限りません。
管理業務の委託を予定している場合には仲介と管理を1社に任せるのか、分けて任せるのかも踏まえて不動産会社を選択しましょう。
●契約内容の確認はしっかりと●
管理業務には法規制がないため不動産会社と適切に契約を結ぶことが極めて重要です。
万が一、不動産会社と管理業務に関するトラブルが発生した場合には契約書が解決の拠り所となります。
(1)希望する業務内容に漏れはないか、
(2)委託費は適切か、
など、しっかりと確認し正式に管理を委託しましょう。
ステップ⑤ 賃貸条件を決定し、入居者を募集
募集を開始するに当たっては、賃料だけではなく管理費(共益費)、契約時の敷金や礼金、契約期間、その他の条件(ペットの飼育可否など)を詳細に設定する必要があります。
また、分譲マンションを貸す場合には管理規約に基づいて部屋の利用条件を設定する必要があります。
駐車場や駐輪場についても借り主が使用できるか、名義変更の手続きが必要かなどを管理組合に問い合わせた上で契約条件に付加します。
条件を決定し、入居者を募集します。
不動産会社に仲介業務を依頼した場合は不動産会社と相談しながら賃貸条件を決定し、貸主と不動産会社が合意した方法によって募集活動を行います。
(インターネットや情報雑誌への掲載など、さまざまな方法があります。)
ステップ⑥:入居希望者への対応・条件交渉など
入居希望者からの問合せや物件の内覧や入居希望者との条件交渉なども行います。
不動産会社に仲介を依頼している場合にはこれらの業務を不動産会社が行い、募集活動の報告を受けましょう。※同時に不動産会社が熱心に募集活動をしているかどうかを確認しましょう。
募集条件
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- 相場より高い賃料設定になっていないか
- 敷金や礼金、契約更新時の更新料などの条件に問題はないか
- 季節的要因や地域的要因を加味しているか
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物件の魅力
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- 立地や建物の築年数、間取り、設備など、競合物件と比較して劣っている要素は何か
- 維持管理に問題はないか
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活動方法
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- 有効な広告宣伝が行われているか
- 依頼した不動産会社の募集活動は熱心か
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②募集活動の見直し
一定期間たってもなかな借主が決まらない場合には募集活動を見直す必要があります。
築年数や立地など解消する事ができない問題がある場合には、募集条件の引き下げを検討。
部屋や仕様、設備が劣るなどの解消できる問題がある場合には追加費用をかけてリフォームや設備交換などの検討を。
これまでの不動産会社が行ってきた営業活動を見直し、さらに強化するよう依頼、場合によっては他の不動産会社へ相談する事もあり得ます。
原因をしっかりと分析し、不動産会社と十分に協議しましょう。
ステップ⑦:賃貸借契約を結ぶ
【申し込みを受ける】
募集活動の結果、入居希望者から申込を受けたら入居者を決定して契約準備を行います。
申し込みは、書面で受けることが多くなっています。
一般的には、入居希望者や連帯保証人の住所、氏名、連絡先、勤務先、年収などを申込書に記入してもらいます。
※この段階では、入居希望者から申し込みを撤回されることもあることに留意が必要です※
【入居審査をする】
次に、入居申込者の審査を行います。
賃料の支払い能力があるか、賃料を滞納するような人柄ではないかなどを、慎重に判断します。
もちろんすべてを審査できるわけではありませんが、仲介を依頼している場合には、不動産会社のア
ドバイスを受けるなどして、次の着眼点で慎重に審査をしましょう。
・ 申込書の内容(勤務先や年収等により賃料の支払い能力などを判断)
・ 入居申込者の応対(申し込みに至るまでの応対によって判断)
・ 連帯保証人の応対(入居申込者の同意を得て、連帯保証の意思確認などを行って判断)
なお、審査の結果については、入居申込者に速やかに通知しましょう。
また、入居審査のために得た個人情報について は、プライバシーにかかわる内容が含まれていることも多いので、取り扱いには注意を!
審査の結果、契約を断るような場合には受領した書類は返却した方がよいでしょう。
【物件情報の開示】
契約を結ぶ前に物件に関する情報をしっかりと開示することが大切です。
例えば設備等に不具合はないか、近隣でのトラブルはないか、その他住むに当たって気になることはないかなど、借り主の立場で情報を開示しましょう。
伝えるべき情報を開示しなかった場合には入居後にトラブルが発生し、 貸主の責任を問われることもありますので注意しましょう。
なお、入居者募集を不動産会社に依頼している場合には、不動産会社が物件情報などの重要事項の説明を入居予定者に行うことが法律で義務づけられていますので、これらの情報を正確に不動産会社に伝えるようにしましょう。
【物件の状況を確認する】
貸主は、借り主が物件を使用できる状態で、物件を引き渡す必要があります。
入居後に判明した設備の不具合などは、貸主と借り主の責任が不明確となり、トラブルの原因となることがありますので、入居前に物件の状況をしっかりと確認しておきましょう。
※万が一不具合があった場合には修理をした上で、物件を引き渡すようにしましょう※
【契約条件を決める】
入居申込者の審査が終了したら、次は契約条件を調整していきます。
最近では、入居申込者から契約条件について要望があることも少なくないので、 不動産会社の意見も 聞きつつ、条件の調整を行いましょう。
●賃貸借契約書のチェックポイント●
契約後のトラブルを防ぐためには、契約条件が正確に契約書に反映されているかをしっかりと確認することが大切です。
疑問点があれば、仲介を依頼している不動産会社にも確認するようにしましょう。
(1) 契約期間と更新の定め
契約が普通借家か定期借家かを確認した上で、契約期間を確認します。
契約期間は契約の更新や退去などに関係しますので十分に理解しておきましょう。
契約の更新に関しては、更新手続きや更新料の取り決めを確認しておきます。
(2) 賃料や管理費(共益費)の額、支払い、滞納時のルールなど
まずは賃料や管理費(共益費)の額と受け取り方法、受け取り期日を確認します。
多くの場合は振り込みや自動引き落としで、翌月分を前月末日までに受け取ることになっています。
また、滞納時に延滞金を課す場合には延滞利率についても確認しましょう。
※賃料の改定についての取り決めがある場合にはその内容も要確認※
(3) 敷金など
敷金などを預かる場合には、その金額と返還に関する具体的な手続きなどを確認します。特に、敷金と退去時の原状回復費用との精算をめぐるトラブルは多いので、原状回復に関する取り決めも含めてしっかりと確認しましょう。
(4) 反社会的勢力の排除
不動産取引からの「反社会的勢力の排除」を目的に、反社会的勢力排除のためのモデル条項が導入されるようになりました。
国土交通省が平成24年2月10日に公表した「賃貸住宅標準契約書」では、「貸主及び借り主が、暴力
団等反社会的勢力ではないこと」などを確約する条項を盛り込んでいます。
契約書の中にこうした条項が記載されているか確認しましょう。
相手方がこれらに反する行為をした場合は、契約を解除することができます。
(5) 禁止事項
禁止事項の例としてはペットの飼育、楽器演奏、石油ストーブの使用、勝手に他人を同居させること、無断で長期不在にすること、危険物の持ち込みなどがあります。
契約条件として決めた禁止事項が記載されているかを確認します。
(6) 修繕
入居中の物件の修繕に関する取り決めです。
一般的には、通常の物件の使用に必要な修繕は貸主が行うこととなっていますが、借り主の故意や過失によって必要となった修繕は、借り主が行うこととなります。
このような取り決めが不明確な場合は、入居中のトラブルとなることもありますので注意しましょう。
(7) 契約の解除
貸主からの契約解除の要件などが取り決められています。
例えば賃料などを滞納した場合や、借り主が禁止事項に違反している場合などが挙げられます。
借り主に契約違反があった場合に、契約の解除を検討することもありますので確認しておきましょう。
(8) 借り主からの解約
借り主からの解約について、解約通知の期日や具体的な手続きを確認します。
(9) 原状回復の範囲と内容
賃貸借の契約で最もトラブルになりやすいのが原状回復にかかわる取り決めです。
トラブル回避のためには、原状回復に関する取り決めをできるだけ明確にしておくことが大切です。
退去時の修繕等の義務については、「借り主の通常の居住、使用による物件の破損、損耗」は貸主の負担で、「借り主の故意や過失などによる物件の破損、損 耗」が借り主の負担とされます。
もし、本来は貸主負担とするべきものを、借り主負担とする特約を付す場合は、借り主への説明と意
思確認を慎重に行う必要がありますので注意しましょう。
(10) 特約事項
その他の契約条件がある場合は特約事項として取り決めます。
貸主側で個別の要望がある場合は後になって「そんな約束はしていない」と言われないよう、契約書に記載してもらうことが望ましいでしょう。
ただし借り主に不当に不利益な特約は、トラブルの原因となりますので注意しましょう。
>>契約の種類<<
普通借家契約
期間を定めるor期間を定めないで建物の賃料を定めてする法定更新のある建物賃貸借契約です。
契約期間を定める場合は1年以上で、上限に関する制限はありません。
通常は契約期間を2年に設定する場合が多いようです。
1年未満の契約期間を設定した場合は「期間を定めない」建物賃貸借契約となります。
普通借家契約は「法定更新制度(自動更新制度)」があるため、更新する事が前提となっていて、契約が切れる「1年前から6ヶ月前までの間」に更新しないなどの通知がなければ、自動的に契約更新されます。
法定更新後は「期間を定めない」建物賃貸借契約となり、退去したい時は貸主に対して退去したい旨の通知をしてから3ヶ月後に契約終了となります。
契約の更新は法定更新のほかに、貸主借主双方の合意により更新するという方法があります。
定期借家契約
期間の定めがある建物の賃貸借で、かつ、契約の更新がなく公正証書等の書面で契約されることが必要な賃貸借契約です。
契約期間の上限下限は定められていないので、契約期間は自由に決める事ができますが、「契約更新」がありません。
引き続き借りたいという事であれば、契約更新ではなく再契約となります。
期間を自由に設定でき、契約期間が終了すれば確実に退去してもらうなふぉのメリットがある分、更新料がもらえない、賃料・礼金等が低めになる傾向があるなどデメリットもあります。
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普通借家契約
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定期借家契約
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契約更新
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ある
(正当な事由が無い限り更新し続ける)
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ない
(期間満了により終了)
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契約期間
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期間を定めなくてもよい。
期間を定める場合は1年以上。(1年未満の期間を定めても、期間の定めのない契約になる)
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契約期間は必ず定める。
期間についての制限はない。
(1年未満の賃貸期間も定められる)
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契約手続き
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書面でも口頭でも可能。
(トラブルを防ぐため契約書を交わすケースが一般的)
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契約前に、更新のない契約であることを書面で説明する必要がある。
契約は、公正証書など書面で結ぶ必要がある。
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賃料増減額の
特約
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特約に関わらず、当事者は賃料の増減を請求できる。
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借賃の増減は特約の定めに従う。
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中途解約
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中途解約できるとする特約は有効。
特約がなければ、貸主と入居者の合意が必要。
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特約がなければ、中途解約は原則できない。
居住用で床面積200㎡未満の物件の場合のみ、入居者がやむを得ない事情で、生活の本拠に使うのが困難になったときは中途解約できる。
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【賃貸借契約の手続き】
賃貸借契約の締結は、不動産会社の事務所などで行われます。
契約には貸主や借り主、仲介した不動産会社などが立ち会います。(必要があれば連帯保証人も立ち会います)
なお、契約に立ち会えない場合には不動産会社に依頼することになります。
契約時には、契約書の内容を読み上げて最終的な確認をし、内容に問題がなければ契約書に署名・捺印を行います。
貸主はこの後、借り主から初期費用(敷金や礼金、前家賃など)を受け取り、敷金などに対しては預り証、礼金や前家賃に対しては領収書を発行します。
その後、鍵を渡して 契約は終了です。(鍵の預り証を受け取ることもあります)
※不動産会社に仲介を依頼している場合は、仲介手数料を支払います。(不動産会社からは領収書を受け取る)
ステップ⑧:入居後の管理
住まいを貸すにあたっては適切な管理を行いましょう。
そこで、まずはしめに管理業務の全体像を整理します。
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入居者管理
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建物管理
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自らの資金管理
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日常的に
やるべきこと
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更新時・退去時に
やるべきこと
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○更新の場合
○退去の場合
- 退去時の立ち会い
- 修繕箇所の確認、入居者との調整
- 賃料や敷金その他の費用等の精算
- 新たな入居者募集
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- 敷金の精算などに伴う預り金の管理
- 更新や退去に伴う収支の管理
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長期的に
やるべきこと
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長期的修繕にかかる費用の積み立て |
【入居管理の実務】
① 賃料の管理
指定した口座への賃料の入金確認を毎月きちんと行います。
もし入金が確認できない場合には、借主へ連絡をします。
それでも入金が確認できない場合には滞納への対応を始めましょう。
この時避けたいのは、家賃滞納に気づかず支払う賃料が2ヶ月、3ヶ月…と大きくなってしまう事です。
借主が払いたくても払えないという状態に陥る事があるからです。
また、早めの対応で常態化を防ぎましょう。
もし、連絡を重ねても効果がない場合には、内容証明郵便を利用するという手段もあります。
※万が一契約解除を視野に入れた場合、事実を証明するのにも有効です※
場合によっては連帯保証人への連絡という方法も考えられます。
② 借主からの苦情対応
借主から苦情があった場合にはできるだけ早く対応する事が大事です。
住まいの賃貸では設備の故障や不備、近隣への苦情が多くなっている様です。
実際苦情を受けた場合は苦情の対応先を明らかにしましょう。
基本的には貸主対応ですが、不動産会社に入居者管理を委託している場合にはその不動産会社が対応します。
また苦情の原因を特定し、契約の取り決めなどを確認しましょう。
貸主か借り主のいずれが対応すべきかを適切に判断することが大切です。
苦情対応の遅れが原因で予想外な時期に退去という結果になった場合、その後の収支にも影響が及ぶ可能性もありますので、苦情への対応はできるだけ迅速に!
③更新や退去への対応
契約期間の終了前後においては様々な手続きが発生します。
●借り主への意思確認
契約期間の終了が近づいた時点で、借り主に契約を更新するか退去するかの意思確認を行います。
一般的には契約期間終了の半年前から3ヶ月前までに書類を送 付して確認します。
入居者管理を不動産会社に委託していない場合には、自分で書面を送付するなどの確認作業を行うことになります。
●更新の場合
賃料を変更するなど、更新に当たって何らかの書面を結ぶ必要がある場合には、その内容を記載した書面を準備します。
そのほか、当初の契約書に基づいて更新料の受け取りや借り主の保険契約の更新などが必要な場合は、これらの手続きも漏れなく対応する必要があります。
●退去の場合
退去時の立ち会いにより室内の状況を確認し、修繕などの原状回復の方針を決めると同時に借り主との費用負担の割合を調整し、クリーニングや修繕などの作業を手配していきます。
その後、賃料や借り主が負担する原状回復費用などと精算した上で敷金を返還します。
入居者管理・建物管理などを不動産会社に委託していればこれらの手続きを代行してもらえる場合もありますが、原状回復をどこまで行うかなどについては貸主に判断を求められることは少なくありません。
原状回復はトラブルになりやすい複雑な問題ですから、きちんとした知識を持って適切な対処ができるようにしておきましょう。
借り主が退去となった場合には、不動産会社に仲介を依頼するなどして、新たな入居者を募集します。
【建物管理の実務】
(1)日常的な清掃、その他のメンテナンス
住まいを貸す場合には、貸主が清掃などの建物の管理を行う必要はほとんどありません。ただし、それ以外の賃貸アパートなどでは、清掃や電球の交換などの日常的な業務を行う必要があります。不動産会社に建物管理を委託していない場合は、貸主が自らこれらの業務を行います。
(2) 室内の修繕や設備その他の修理
入居中に設備に不備が生じたり、壊れたりした場合には、できるだけ早く対処する必要があります。また、借り主の退去時のクリーニングや修繕も必要となりま
すので、あらかじめ工事等を依頼する業者を整理しておきましょう。分譲マンションであれば、設備ごとに修理を依頼する業者が決まっていることもありますの で、賃貸する前に管理組合や管理会社へ確認して、連絡先などが分かるようにしておきましょう。なお、入居者管理や建物管理を委託している場合には、不動産
会社が対応します。
(3) 室内のリフォームや設備の更新、建物の修繕など
長期的に賃貸する場合には、建物や設備の老朽化への対応も必要です。特に、住宅設備などは、耐用年数を過ぎると故障が増えたりする可能性があります。ま
た、設備の仕様が陳腐化することにより賃料が下がることもあるので、定期的に更新することも検討しておくことが大事です。定期的な交換に当たっては長期的 な修繕計画を立てておくとよいでしょう。
【資金管理の実務】
(1)日常的な収支の管理
賃料の入金に加え、管理会社等への支出やその他修理のための支出など、収支についてはすべて記録しておく必要があります。リフォーム代、修繕代といった金額の大きな支出以外に、保険料、交通費や通信費などの細かい支出も忘れずに記録して、確定申告に備えましょう。
(2) 更新や退去時の収支の管理
契約の更新や退去の際には、更新料や新たな入居者からの礼金などの収入や、室内のクリーニングや修繕、新たな入居者募集にかかる仲介手数料などの支出などが発生します。また、敷金の返還などもありますので、しっかりと収支を管理する必要があります。
(3) 確定申告
不動産収入を得た場合には、確定申告をする必要があります。
個人の口座とは別に、賃料入金や管理会社への費用支払いなどの事業用の口座を作って管理しておくと、税務署に対する説明もしやすくなりおすすめです。
毎年2月半ばから3月半ばの確定申告の時期には、税務署はたいへん混み合います。
初めての確定申告で分からないことがある場合は、早めに確認したほうが安全です。
(4) 修繕費・リフォーム費用等の手当て
長期的に賃貸する場合には、建物や設備の老朽化に対応するために、定期的な修繕や交換なども必要となります。
また、空室対策としてリフォームを検討することも考えられます。
そのためのお金をあらかじめ想定し、長期的な資金計画を立てておくとよいでしょう。
その②へ続く